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2012年8月30日木曜日

ヒバリの子育て・越前編

英名:Skylark
学名:Alauda arvensis


 雪解けが終わると、田畑や河川敷の高空にピーチュル、ピーチュルと飛びながらさえずる声が明るく響く。地表に降りるヒバリの後を追って、巣を見つけようとした少年時代。簡単に巣は見つからないが何度も挑戦していると、思いがけず卵が産みつけられている巣や雛が入っている巣を発見出来ることもあった。卵も雛も保護色なので、接近して良く見ないと見過ごしてしまう。

越前ではあちこちにヒバリがいるので、子供の頃を思い出しながら、まだ耕運機が入っていない草ぼうぼうの田んぼを捜索し何度か卵がある巣を発見した。ところが、まだ卵がふ化する前に大型の耕運機が入り(優しいお百姓さんは巣をあぜの上へ移動してくれたりもする)卵入りの巣はそのまま攪拌されて稲の肥料変わりに消えてしまうことも多い。ヒバリにして見れば、休耕田と間違えてそこに巣を作っていたに違いないが、運悪くただ畑仕事が遅れて始まったと言う場合は悲しい結末に終わることもしばしばだ。又、偶然雛がいる巣を発見してもカメラを構える適当な場所がなく、撮影し難いことも多い。

今回はたまたま車を駐車出来る場所から5〜6m先だったので、車の窓にブラインドを張り、レンズを出して粘って見ることにした。雛はもう数日で巣立ちかと思われる大きさに育っていたので、親鳥は余り間を置かずに餌を運んで来た。少し離れた場所に舞い降りて、歩いて巣にやって来る場合が多いが、巣の真横にストンと降りてくることもある。ふ化した順番なのか1羽だけ大きい雛がいて、餌を独り占めするので心配したが、3日後には全部の雛が無事巣立って行った。

ヤマメ・降海型

英名:Seema
学名:Oncorhynchus masou masou

ヤマメの降海型とはすなわちサクラマスの若魚である。毎年海からサクラマスが遡上して来る頃、入れ替わる様に海へと出てゆく銀白色のヤマメがいる。背びれや尾びれの先が黒いので、河川残留型のヤマメとは容易に区別出来る。

春の雪解けの時期と重なり、河川が増水して濁る(雪代の)時期なので、東北や北海道の日本海側の河川でその姿を水中撮影するのは容易ではない。雪解けの早い太平洋側の河川の方が早い時期に川の透明度が回復するので、見られる可能性が高い。河川によっては、稚魚を放流しているので、群れで降海することもある。釣り上げれば確認出来るが、大切な資源であるから、当然この時期の釣りは禁止であり、保護されている。

雌の大部分と一部の雄が降海するが、北方程ヤマメの降海する確立が高く、陸封型は少なくなる。雄の一部は河川に残り、そのまま成熟するので、海から帰った大きな雌のサクラマスにまつわりつき、最終的には産卵行動にも参加する例も散見される。

北陸の九頭竜川では例外的に遡上したサクラマスの釣りが認められているので、多くの太公望が全国から集まるが清流とは言うものの大河であるため下流部では水中で観察出来るまでの透明度は望めない。

その生涯を海と川を往復して過ごすサクラマスが命脈を保つためには、川がダムでしきられていないことや、魚の遡上出来る魚道のある堰堤が整備されている等の条件が不可欠である。未来の子供たちのためにも上流に豊かな広葉樹の森林がある様な、自然度の高い河川環境を守ってやらなくてはならない。

キセキレイの子育て

英名:Grey Wagtail
学名:Motacilla cinerea

キセキレイはセキレイ科の美しい小鳥で、山沿いの清流の周辺に生息している。水辺の似合う野鳥なのだが、集落の周辺で営巣するペアも多く、時には車のボンネットの中にまで巣を作ってしまう。

今回は近くの山沿いに住む林業の方からの情報で、「家の物置にキセキレイが巣を作って、雛がいるけど、撮りますか?」とのお誘いがあった。お邪魔して巣を覗いて見ると、可愛い雛が5羽もいる。しかしその場所は高さ1メートル程の道具類が散乱している台の上で、巣は周囲に作業用の足袋を入れた紙箱やら、木材の端切れ等がある裏側なので、そのままでは到底撮影にならない。

相談の結果、時間をかけて1個1個取り除けばよかろうと言うことになり、スタジオ作りから開始。その物置は入口の扉はなく、カラスに雛が襲われないかと尋ねると、カラスは利口だから、しかられるのを恐れて建物の中にまでは入ってこないとのこと。親鳥は物置の前の地面におりた後、トコトコと歩いて侵入してくる。大きな障害物を動かした後は、さすがに警戒して、餌を咥えたまま何度も行ったり来たりしてなかなか巣に戻らないので心配したが、雛に餌を与えたい本能が強いらしく、間もなく給餌を再開したので、3メートル程離れた場所にリモコン操作の出来るビデオ・カメラ(テレコン使用)を設置し、何とか餌を与えている情況が撮影出来る様にした。

喉の黒い方が雄で雌より餌を運ぶ回数はやや少ない。餌を運んで来た帰りには雛の糞をくわえて運び出すのには感心する。この日から4日後が巣立ちの日となったが、巣立ちしたばかりなのに親の後を追う様に飛び去り、小屋の裏を流れる渓流の岩の上で親に餌をねだっていたので安堵した。雛は数日で独立し、親から離れるとのことだが、巣立って間もない赤ちゃんが独立して生きて行ける事実には、不思議な生命力さえ感じる。


釣魚クロダイ・関西ではチヌ

英名:Black porgy
学名:Acanthopagrus schlegeli

クロダイはタイ科の魚だが、マダイに比べると黒灰色で地味な体色である。とは言え釣魚としては釣り方もいろいろあって奥が深く人気がある。分布域は北海道南部からトカラ列島と広い。幼魚や若魚は河口域や淡水域にも侵入するので、淡水魚の図鑑にも登場する。

ビデオは7月中旬に佐渡で撮影したもので、大型のクロダイがドロップオフ近くの浅い藻場に群れていた。警戒心の強い魚であるが、静かに潜って息をこらえているとダイバーに興味を持って接近してくることがある。(普通、ダイバーは息をこらえるのは薦められないのだが・・・)

クロダイは例外的に雄から雌に性転換する魚で、雌から雄に変わるマダイ等他の性転換魚とは正反対でもある。又、成長につれて呼び名が変わる出世魚で、関東ではチンチン→カイズ→クロダイ、関西ではババタレ→チヌ→オオスケとなる。チヌと言う呼び名は関西で一般的だが、大阪湾を昔は「茅渟の海」と呼んだことに由来する様だ。

以前、晩秋に南房総の波左間海中公園へ取材に行った折、漁協の方がスピアーフィッシングで仕留めた大きなクロダイをお土産に頂いたことがある。発泡スチロールに氷を入れて、そのまま東京まで持ち帰り、刺身や潮汁で食べたが実に美味であった。

福井県でも若狭湾や越前海岸のクロダイが市場に並ぶが主産地は瀬戸内海の広島県周辺海域の様だ。クロダイは全て天然物かと思っていたが、最近は養殖もされているとか。西伊豆の大瀬崎では毎年12月頃になると大型のクロダイが岬の先端附近の浅瀬に集結して来る。

クロダイの場合、大型は殆どが雌なので、早春には繁殖行動に入るものと思われる。その時はダイビングが終わってエアーがなくなってから浅場で群を発見したので、ボンベを背負ったままスノーケルで追いかけることになって大変だった思い出がある。

取材協力:小木ダイビングセンター