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2012年3月26日月曜日

佐渡北小浦のコブダイ・弁慶

学名:Semicossyphus reticulatus
英名:Bulgyhead wrasse

私が佐渡の北小浦を訪れ、始めてコブダイの弁慶を撮影したのは、1993年の7月だった。伊豆半島で良く潜っていた私は何度かコブダイにも出会っていたが、結構神経質な魚で普通はダイバーが近づくと逃げてしまうことが多い。

北小浦では佐渡ダイビング・サービスの本間了氏が毎日の様に活きの良いイカやサザエを持って潜り、せっせと餌付けしたお陰でダイバーと仲良くなり、潜ると餌をねだりに近づいて来るまでになついている。

その時撮影した姿は翌年小学館から刊行された「海の魚」に掲載されている。その後私は北海道に転居してしまったので、佐渡を訪れる機会がなかったが、2010年久しぶりに又、佐渡へ取材に行き、北小浦に潜って見た。

弁慶は以前よりやや老成魚の風貌になり、向こう傷も増えていたが、健在であった。次の世代を担うであろう若い雄も育っていたが、まだ縄張りの王者として君臨していた。

最近の事件らしいが、弁慶を見に潜っていたあるダイバーが、余り近くまで接近して来る弁慶に恐怖感を感じてダイバー・ナイフを抜いて切りつけてしまったらしいのだ。忠臣蔵ではないが、「またれい。殿中でござるぞ」とガイドが静止するも間に合わず、弁慶は深手を負ってしまったとか。不幸中の幸いで一命はとり止めたが、大きな傷は残ってしまった。世代交代は近いかも知れない。

ビデオに登場する幼魚は赤ちゃんの時の弁慶ではないのだが、コブダイの幼魚。親とは似ても似つかない美魚である。


ムササビのお出かけ

学名:Petaurista leucogenys
英名:Japanese giant flying squirrel

札幌に住んでいた時、エゾモモンガが大好きな友人がいて、毎晩の様に夜の森を散策する機会があった。暗くなると住処の樹洞から出て来て、樹木の間を滑空しながら移動し、餌場へ向かう。朝、夜が明ける前に又巣穴へ戻ってくる。昼間でも巣穴からのんびりした顔をだしている時もあるが、多くの時間は眠って過ごす。

夜の森と言ってもヒグマが冬眠中の真冬であり、振り返ると町の明かりが見える程度の場所なのであまり恐怖感はない。生態的に面白いだけでなく、とても可愛い顔をしている。

越前市に転居してからホンドモモンガを探すのを頼まれて又夜の森に出かける様になったが、発見したのはムササビばかり。ムササビはモモンガに近いリス科の動物で、日本固有種である。

ムササビは北海道には生息しないが、福井県は神社仏閣の多い所なので、鎮守の森も少なくない。町の中に孤立している場合は余り期待出来ないが、裏が山へと続く様な境内にある大木の樹洞には必ずと言って良い程ムササビが住んでいる。とは言え、樹洞がとても高い位置にある場合などは撮影するのも大変なので、なるべく低い樹洞を探さなくてはならない。

ムササビは山奥に建てたログハウスの天井裏に住み着き、あちこちに穴を開けてしまったりするいたづら者なので、嫌われる。神社でもときどき内密に捕獲して、遠くの山へ捨てに行く僧侶もいるそうだ。

今回は巣穴から出てくる所までは撮れたが、その後、照明が届かない高い所まで登られてしまったので、滑空する姿は残念ながらまだ撮れていない。



2012年3月14日水曜日

アカショウビンの営巣

学名:Halcyon coromanda
英名:Ruddy Kingfisher

私が始めてアカショウビンを見たのはもう20年以上前になる。北海道恵庭の森を流れる渓流で淡水魚の撮影をしていたとき、「キョロロロロ・・・」と気持ちの良い鳴き声が聞こえ、見上げると小枝に赤い体で太くて長いくちばしの小鳥がいた。

私は野鳥が大好きなので、直ぐにでも撮影したかったが、いかんせん広角レンズを使用する機会が多い水中と超望遠レンズを主に使用する野鳥の撮影は両立不可能でそのときは断念するしかなかった。

その後支笏湖から流れる千歳川へ水中撮影目的の取材に行ったときにも出会う機会があった。5〜6年前に福井県に転居してから、住まいの近くに自然が多く、様々な野鳥が生息しているので、再び周辺の渓流や森を探し回った。

カワセミやヤマセミは比較的容易に発見出来たし、姿も見られたが、それでもアカショウビンには遭遇出来なかった。それもその筈で、アカショウビンは5月頃、南方から渡って来る数の少ない渡り鳥で1年中同じ場所に住んではいなかったし、薄暗い山奥の渓流などにいて、滅多に開けた場所には姿を見せない鳥だったのだ。

そんなときもう40年以上も野鳥の観察を続けているY氏とめぐり合った。彼は数枚の紙焼きした写真を見せてくれた。大きなスズメバチの巣に営巣しているアカショウビンの写真だった。「ええっ・・樹洞に営巣するんじゃなかった」私は驚きを隠せずにいた。そう言えば沖縄ではシロアリの巣に営巣するのをテレビで見たことがある。

翌年の梅雨明けの頃、彼は今年発見した営巣の場所へ案内してくれた。山間部の農家の屋根の裏側に大きなスズメバチの巣があって、握りこぶし大の穴があいている。驚いたことに、スズメバチも一緒にいてブンブン飛び回っているのだ。

親鳥は雌雄が交替で餌を運んでくる。アマガエルが多いが、トカゲや小型のヘビもくわえて来る。驚かさない様にブラインドの後ろに身を隠し、夢中で撮影した。感激の出会いだった。その後この巣から2羽の雛が巣立ったとの報告をY氏から聞いた。




オイカワの産卵

学名:Zacco platypus
英名:Pale chub

オイカワはコイ科の淡水魚で本来関東以西の本州、四国、九州に分布していたが、アユの放流に混じって分布を広げ、現在は北海道を除く日本中ほぼどこの河川にもいるおなじみの魚となっている。用水路や山上湖などにも多い。しかし、いざ水中で産卵行動を撮影しようと思うと良い場所と撮れる時期は限られてくる。

浅瀬で産卵するので、陸上から観察するのも面白い。まず、うっすらと婚姻色に染まった雄は雌の周囲で各ひれを目いっぱい広げて派手なディスプレイ行動を始める。今回の様に雄のまわりには数匹の雌がいて順番待ちの様にも見えるがどっこいこぼれた卵を食べようと狙っているのかも知れない。

雄は一匹の雌を押さえ込む様にして産卵床にしゃがみこむがその時、長い臀びれで雌を抱き込むようにする。ひれを激しく震わせるので、産卵の瞬間には大きな砂煙があがる。そしてその竜巻は思いの他激しいので、オイカワ君自身もびっくりするのか、産卵直後蜘蛛の子を散らすようにすっとんで逃げるのが又面白い。


ウグイの産卵

学名:Leuciscus (Tribolodon)hakonensis
英名:Japanese dace

 ほぼ全国的に生息する種類だが、淡水型(陸封型)と降海型があり、北方程降海型が多い。降海型は栄養豊富な海で生活するので、淡水型に比べて体も大きい。

ある道南の河川。春の雪解けが終わって川の岸にエゾヤマザクラが咲く頃中流の産卵場所に集結した婚姻色の群が賑やかに水音を立てながら産卵行動を繰り広げる。海にいるときは銀白色だった体色は、派手な婚姻色に変わっている。

産卵は1匹の雌を複数の雄が追尾するかたちで行われる。産卵する雌雄だけでなく産み落とされた卵を食べようと集まっている集団がいるので、見慣れないと群れが右往左往しているだけで産卵の状態は良く判らないが、ゆっくり水中から観察していると、産卵の瞬間も確認出来る。浅瀬で産卵しているグループは背びれや背中が水面から出ているので、外敵に襲われ易い。アオサギやキタキツネが入れかわり立ちかわり現れては1匹又1匹とくわえて去って行く。

あまり浅い場所は水中カメラのポートが水中に没しない為、水中が撮れないので私は逆にやや深い場所で産卵中の群を探してカメラを構える。腹ばいの姿勢でじっと撮影していると今度は林道から人の声がする。「あの人動かないけど死んでるんでないかい」と言っているらしい。私は膝を曲げて片足だけ水面に持ち上げて生きている証とした。前に聞こえない振りをしていたら石ころを投げつけられた苦い経験があるのだ。生活の知恵と言える。



2012年3月12日月曜日

ブラックバス(オオクチバス)の産卵

学名:Micropterus salmoides salmoides
英名:Black bass / Largemouth bass

私が始めて水中のブラックバス(以下BB)を見て、撮影したのは、もう40年以上も前のことである。TBSテレビの撮影で、箱根の芦ノ湖に潜ったとき、沈木の所にいた見たこともない淡水魚が他でもないBBだったのである。BBは現在ではほぼ全国的に分布するが、もとはと言えば外来魚。釣人のゲリラ放流によって生息域が広がり日本固有の魚種が駆逐されつつある。

琵琶湖は淡水魚の宝庫と言われる日本最大の湖だが、岸近くの浅い場所に生息するタナゴの仲間などは絶滅に近い状態である。最近の琵琶湖の浅場にはBBとブルーギルばかりが目につき、在来の魚はヨシノボリだけかと思われる程の悲惨な状態である。

ワンドになったところを潜っていると、あちこちで産卵床の卵や仔魚を守っている大きな雄の攻撃にさらされる。私は頭にネオプレーンのフードをかぶっているから大丈夫だが、水中メガネだけだと額や耳を噛み付かれるだろう。

BBは雄同士で激しい縄張り争いもするし、釣人はキャッチ・アンド・リリースで、釣れても持って帰らずに又放流するので傷物が多い。又、透明度が良くない日は撮影にならない。この日は晴天ベタ凪が3日間続いた後で、かなりの透明度があった。そして幸運なことに無傷に近いペアが目の前で産卵を始めてくれた。

サケの様に器用ではないが、雄は尾びれを使って、底の泥を吹き飛ばし産卵床を掘りながら、雌に産卵をうながす。産卵は体を震わせながら繰り返し行われる。そしてこのシーンに感動する自分と失望する自分が見つめる。残念ながらBBはこのような強い生命力と繁殖力でこれからも末永く琵琶湖に君臨するであろう。琵琶湖の水を全部干しあげてBBを駆除するなんて出来ない相談なのだから。

海洋生活型のサクラマス

学名:Salmo(Oncorhynchus)masou masou
英名:Masou trout

ヤマメには陸封型と降海型があって、降海型は海へくだり、大型に成長する。北海道ではちょうど雪解けの時期と遡上の時期が重なるので、(特に日本海側では)雪代で河川が増水し濁りがあって水中撮影が出来ない。

6月の下旬になると雪解けの増水も収まるので、中流の淵にたどりついた個体を観察できるが、銀白色の個体は次第に輝きを失い、背側には多数の黒点が現れ始める。これに比べ、降雪の少ない年に太平洋側の河川の感潮域では海から遡上して間もない銀毛のサクラマスをクリスタルな水中で観察出来ることがある。

ちょうどこの日も晴天で水の透明度が良かった。河口から50m程の所に国道の橋が掛かっており、橋下の日陰に数匹が群れていた。流れがきつい場所で私の胸位の水深があったので通常の倍位の約20kgものウェイト・ベルトを腰に巻いて静かに接近する。排気の泡の音で逃げない様に空気ボンベは使わずスノーケル装備だ。

雪解けの水はしびれる程冷たいので、ホッカイロを忍ばせたドライスーツを着用している。一度は逃げてしまったが、鱒たちは又元の位置に戻って来て、しばらくの間カメラの前をゆっくりと旋回してくれた。


スナヤツメの産卵

学名:Lampetra(Lethenteron)reissnen
英名:Sand Lamprey

スナヤツメは一生を淡水域で暮らすヤツメウナギ科の純淡水魚であるが、研究者によっては魚類の仲間と見なさない例も多い。九州の南部を除いてほぼ全国的に生息するが、北方型と南方型に分ける場合もある。

北海道では毎年雪解けの頃、源流に近い川の上流の砂泥底に沢山のスナヤツメが集まって来て、産卵行動を繰り広げる。それを狙ってアオサギやシラサギの仲間、ヤマセミ等が集まって来て、ダイナミックに捕食して行く。

産卵している場所を探すにはまず野鳥が集まっている場所を探せば良い。群れとなったヤツメウナギはまず雌がその丸い吸盤状の口で手ごろな石ころに吸付いてから雄が雌の頭部附近に吸付き下半身を雌の体に巻きつける。

2匹がからみあった状態で体を丸め激しく痙攣しながら産卵する。産卵床は小川の中央の流れの強い場所なので、吸付いた口が石から離れてしまうこともあり、ペアがからみあったとたんに流されてしまうケースも多い。

幼魚の時代はアンモシーテスと呼ばれ、目がない。成体になると目が出るが、八目の内7ケは鰓孔である。成体は餌を食べず、産卵行動が終わるとその一生を終える。