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2012年12月27日木曜日

卵を守るオヤニラミ

英名:Japanese aucha perch
学名:Coreoperca kawamebari

オヤニラミは日本では珍しいスズキ科の純淡水魚である。体長は10〜12センチ。これと言った派手な体色ではないが、鰓蓋には特徴的な眼状斑がありヨツメとも呼ばれる。産卵期の雄は雌が水中の芦の茎等に産み付けた卵を守り、ふ化した仔魚の世話もする。

岐阜県の淡水魚仲間から、卵を睨んでいる雄がいるとの情報を聞いて出かけて見た。場所は木曽川の支流で、比較的自然度の高い河川だった。前回調査してから一度雨が降ってやや増水したとのことで、流されたのか既にふ化したのか、目的の場所では少しの卵しか残っていなかった。

しかし幸いにも直ぐ近くの竹やぶの畔りで新しい卵が発見出来た。増水で岸がえぐれたらしく、竹の根っこが水中に露出しており、川底まで伸びている。その竹の根に整然と産み付けられた真新しい卵があり雄も控えている。しかし頑張ってしばらくは卵の傍を離れなかったこの雄も、強力なビデオのライトを嫌ってか、間もなく逃走して隠れてしまい、そそのまま現れなかった。天も味方したのか、ちょうど雨足が激しくなって来て、水も濁り始めたので、帰り支度をすることになった。

ネコギギは夜行性

学名:Pseudobagrus ichikawai
英名:Stumpy bullhead

ネコギギは1977年国の天然記念物に指定されているギギ科の魚であり、三河湾及び伊勢湾に流入する河川にのみ分布している。ネコギギは夜行性で昼間は岩の間などに隠れていて撮影出来ないと言うので、以前撮影した時には夕方暗くなるのを待って撮影したものだった。しかし今回は曇りがちの天気だったとは言え、日中だったので、水中で出会えるとは思ってもいなかった。

仲間の一人が「ギギがいますよ」と叫んだので私は「何だギギか」と見ようともしなかったのだが、「ネコです。ネコギギですよ」と再度声をかけられ、水中マスク越しに覗いて見ると、何年ぶりかで見るネコギギが岩の下から顔を出しているではないか。それも大小2匹。雌雄であるかは定かではないが、時々全身をあらわして泳いだりもしていた。正面から見ると可愛い顔に猫の様にヒゲが生えているのでこの和名なのだと納得出来る。画面の端に登場しているヌマチチブと比較すると判る様にこの仲間では小型種である。

清流にしか棲めない魚なので近年生息域が狭められているとのこだが、何時までもこの生まれた川で命脈を保ってくれることを祈った。



川を渡るホンドタヌキ

英名:Raccoon dog
学名:Nyctereutes procyonoides


最近時々石川県の森林公園へ出かける。海岸と大きな河に面した広大な森の中央には清涼な水が流れる小川があって、小鳥たちが水浴びに来る姿を観察出来る。

所定の場所に三脚を据えて待っていると、キビタキ、ヤマガラ、シジュウカラ、オオルリなどが次々に出没して水を飲んだり、水浴びをする。そうしたときふと流れの奥を見ると、大きな動物が現れて水を飲んでいる気配だ。最初は石の陰で良く見えなかったので、アライグマかと思ってビデオを回し始めたが、「ヌッ」とあげた顔は紛れもない狸(ホンドタヌキ)だった。

大きさはこれまで私が遭遇した中では最大級。夜間には何度か遭遇しているが、明るい場所で出会うことは少ないので、そのまま撮り続ける。どうやら右の前足を痛めているらしく歩き方が不自然である。動物園の生き物の様に獣医さんに診て貰えない野生の動物にとって、歩行が出来なくなることは即、死を意味する。イガグリの棘を刺した位なら良いのだが、骨折とかだったらどうなってしまうのだろう。そんな心配をしている私の方を見ても特に慌てる様子もなくゆっくりと川を渡って去って行った。

そう言えば北海道にいた頃、渓流の撮影からの帰り道、林道の中央でにわか雨をシャワー変わりにして体を洗っていた笑えるタヌキがいたのをふと思い出した。あのタヌキは今頃どうしているだろうか?

2012年11月8日木曜日

貝を掘り出すミヤコドリ

英名:Oystercatcher
学名:Haematopus ostralegus

珍鳥とも言える野鳥だが、近年は稀に群れが見られることもあるとか。一度会って見たいと思っていたが、野鳥仲間からの情報で、石川県の千里浜付近に出没していると聞いて案内して頂いた。

千里浜は甲殻類や貝類が豊富なので、シギ類が渡るときの中継地域になっているが、日本でも余り例がない変わったドライブが合法的に楽しめる場所だ。延々と続く砂浜がそのまま観光道路になっていて、4WDではない普通の車でも砂に埋まってしまうことなく潮風に吹かれながら疾走することができる。

渚に当たる海水が多く含まれる範囲でも、舗装道路並みの硬さがあって、わだちは残るものの、タイヤが埋まることもなく走ることが出来る。話は横道にそれてしまったが、とにかく双眼鏡で被写体を探す場合でも、渚に凸凹がないので、かなり遠くから何かがいることが見える。その時も遥か彼方からミヤコドリがいるのを発見出来た。車で渚と並行している10メートル位離れた方のドライブ・ロードを走って接近する。

ミヤコドリは赤くて長い嘴を砂に差込む様にして白い貝殻を咥え出しては食べている様だ。「用事のある鳥は逃げない」と言われるがその時も、索餌に夢中で車の窓からレンズを出して撮影している我々にだんだん近寄って来た。超望遠レンズなので、近すぎるのも困ると言う贅沢な状態になる。その内珍鳥さんも「ハット」我に返って50メートル程飛んで移動したが、広げた羽がケリの様に良く目立って印象的だった。


サンコウチョウの子育て

英名:Japanese Paradaise Flycatcher
学名:Terpsiphone atrocaudata

初夏のある日、友人からの情報で、ある森林公園でサンコウチョウが営巣しているとのこと。サンコウチョウはスズメ目カササギヒタキ科の野鳥で台湾やフィリピンから夏鳥として日本列島へ渡って来て繁殖するが、うっそうと茂った暗い林に住むためなかなかその姿を見られない。

まろも「ツキヒーホシ・ホイホイホイ」(月日星と聞きなされ三光鳥と言う和名の由来)と言う独特の鳴き声を頼りに何度も森を徘徊したが、それまで飛んでいる姿を一度見たきりだったので、早速出かけて見た。

高い小枝の途中に作られた小さな巣には数羽の雛がいて、親鳥が戻ってくるとしきりに餌をねだっている。雌は赤褐色の地味な体色だが、雄は体長の3倍もある長い尾羽を持ち、くちばしとアイリングが明るい青色で頭部には冠羽がある。

ひらひらと舞うように森の中を飛び回り、昆虫をフライングキャッチする姿は実に優雅で感動ものである。雛は親鳥が来た瞬間にビビーンと電気で打たれたごとく突然背伸びをして大きな口を開けるので、見ていて飽きない。

撮影を終えた帰り道、近くの小川でサンコウチョウが水浴びに来るところを狙ってカメラを構えているバードウオッチャーがいた。水浴をする時雄は、その長過ぎる尾羽をくちばしで咥え邪魔にならないようにはしょりながらパチャパチャと浴びるそうで、次回は是非その姿をビデオに収めたいと思っている。ついでながら静岡県では本種が県の鳥に指定されている。


ゆかいなミユビシギ

英名:Sanderling
学名:Calidris alba

秋、多くの野鳥が南へ帰る頃、波が寄せては返す渚で忙しそうに餌をついばむミユビシギの群れを見つけた。

体は小さいが歩くスピードは寄せ波より早い。砂中の貝類や甲殻類は当然ながら波をかぶる場所の方が多いので、波が引くたびにギリギリのラインまで侵入する。立派な羽があるのだから飛べばもっと素早く移動出来ると思うのだが、波のスピードの方が早くて間に合わない場合以外は早足で後退する。

多くの個体の後ろ指がないのが和名の由来だが、足の指がチドリの仲間の様に退化して1本足りないのでハイヒールを履いてかけっこしている感じなのになぜこんなに早く走れるのか不思議である。

この群れは純群ではなく、ハマシギも混じっていて、同じような行動をしていた。ミユビシギはハマシギより嘴が短く、喉や腹部が白い。(冬羽なので全体にハマシギよりも白っぽい)割合人を恐れないで、浜辺を散歩する人が4〜5メートルの近距離を通っても逃げない。しかし犬の吠え声とか何かに驚いて一斉に飛び立つこともあって、磯波の真上を数百羽が群れて飛ぶ姿が見られることもある。

この情景が浮世絵的で又素晴らしい。旅鳥として飛来するが、中部日本以南では越冬する群れがあり、石川県では雪の降る真冬でも見られるとのこと。吹雪の海岸で寒そうにかたまっているシギの群れを想像しながら帰途についた。


2012年10月11日木曜日

キビタキの水浴び・越前編

英名:Narcissus Flycatcher
学名:Ficedula narcissina

 新緑の季節になり、近所の森へ東南アジアからキビタキが渡ってくると、本格的な野鳥の季節になったことを実感する。雌はオリーブ褐色で地味だが雄は眉斑と腰の部分が黄色で良く目立つ。バーダーにとっては、必ず一度は見てみたい野鳥である。

私が始めて遭遇したのは、札幌に移転したばかりの頃で、市内の西岡水源地と呼ばれる緑の多い公園だった。望遠レンズを装着したカメラに一脚を付けて、散歩がてら、森を散策していたときだった。5〜6mしか離れていない、低い枝にその姿を発見し、あわててレンズを向けたが、正面から見ると喉のオレンジ色が濃い個体で、美しかった。

何故その様な所にポツンととまっていたのか不思議だったが、今思えば、キビタキはそうした森の中の下枝にとまって、近くに飛んできた昆虫をフライングキャッチする習性があり、正にわたしは狩の場所で出くわしたと言うわけだったのだ。しかしキビタキも春先に渡って来たばかりの頃は木の先端で縄張り宣言のさえずりをすることを知っている人は少ないだろう。典型的な里地里山の越前市に転居してから、見る機会が増え、水浴びする小さな沢もあるので、ブラインドを張って座り込んだ。警戒心が強く、最初はブラインドから覗いているレンズがほんの少し動いても逃げてしまった。

メジロやヤマガラに混じって時々キビタキが現れる。雄は気性が荒く、コサメビタキが来ると、喧嘩して追い出してしまうが、何故かメジロとは仲良しで、水浴びの混浴も見られる。慣れてくると結構時間をかけて水浴びし、その後近くの枝にとまって丁寧に羽づくろいするきれい好きな野鳥である。

球形の巣を作る・カササギ

英名:Magpie
学名:pica pica

カササギは九州西部に分布する野鳥なので、北陸では見られないと思っていたが、石川県の海沿いにある公園に営巣しているペアがいると聞いて出かけて見た。黒色に青い光沢がある羽毛で腹部や肩が白い美しい鳥だと思っていたので、一度は実物を見てみたかったのだ。

実際に対面して見た感想としては、オナガとカラスの相の子の様な姿であり、飛んでいるときは長い尾が特徴のオナガのイメージで悪くないが、別名カチガラスの名もある様に、その行動はカラスに近く、陸上をヨチヨチ歩きをしたり、跳ね歩いたりする姿はあまり可愛いいとは思えない。

特筆すべきはその大きな巣の形で、ほぼ球形に近く、ななめ上側に出入り口がある。私が行った時も子育て中の様で、何度も巣に出入りしていたが、巣の中の様子までは伺い知ることが出来ないので、雛が何羽いるのかも確認出来なかった。

産卵期は3月中旬頃で通常は5〜8個の卵を産む様だ。今回の巣はビデオに映っている様に公園の駐車場横の樹上に作られていたが、電柱等を利用することも多いとか。大きな声で早口にカシャクシュと騒々しい鳴き方をするのには閉口する。本種は渡り鳥ではなく、定着性が強い種類なので、 17世紀に、朝鮮半島から人為的に持ち込まれた帰化種とされているが、定かでない。

北海道でも室蘭から苫小牧にかけて散見されることから、韓国と交易する船舶によって持ち込まれたとする説も有力である。佐賀県の県鳥で、天然記念物に指定されている。国内では稀種だが、朝鮮半島や中国では普通種で何処にでもいる様だ。


2012年8月30日木曜日

ヒバリの子育て・越前編

英名:Skylark
学名:Alauda arvensis


 雪解けが終わると、田畑や河川敷の高空にピーチュル、ピーチュルと飛びながらさえずる声が明るく響く。地表に降りるヒバリの後を追って、巣を見つけようとした少年時代。簡単に巣は見つからないが何度も挑戦していると、思いがけず卵が産みつけられている巣や雛が入っている巣を発見出来ることもあった。卵も雛も保護色なので、接近して良く見ないと見過ごしてしまう。

越前ではあちこちにヒバリがいるので、子供の頃を思い出しながら、まだ耕運機が入っていない草ぼうぼうの田んぼを捜索し何度か卵がある巣を発見した。ところが、まだ卵がふ化する前に大型の耕運機が入り(優しいお百姓さんは巣をあぜの上へ移動してくれたりもする)卵入りの巣はそのまま攪拌されて稲の肥料変わりに消えてしまうことも多い。ヒバリにして見れば、休耕田と間違えてそこに巣を作っていたに違いないが、運悪くただ畑仕事が遅れて始まったと言う場合は悲しい結末に終わることもしばしばだ。又、偶然雛がいる巣を発見してもカメラを構える適当な場所がなく、撮影し難いことも多い。

今回はたまたま車を駐車出来る場所から5〜6m先だったので、車の窓にブラインドを張り、レンズを出して粘って見ることにした。雛はもう数日で巣立ちかと思われる大きさに育っていたので、親鳥は余り間を置かずに餌を運んで来た。少し離れた場所に舞い降りて、歩いて巣にやって来る場合が多いが、巣の真横にストンと降りてくることもある。ふ化した順番なのか1羽だけ大きい雛がいて、餌を独り占めするので心配したが、3日後には全部の雛が無事巣立って行った。

ヤマメ・降海型

英名:Seema
学名:Oncorhynchus masou masou

ヤマメの降海型とはすなわちサクラマスの若魚である。毎年海からサクラマスが遡上して来る頃、入れ替わる様に海へと出てゆく銀白色のヤマメがいる。背びれや尾びれの先が黒いので、河川残留型のヤマメとは容易に区別出来る。

春の雪解けの時期と重なり、河川が増水して濁る(雪代の)時期なので、東北や北海道の日本海側の河川でその姿を水中撮影するのは容易ではない。雪解けの早い太平洋側の河川の方が早い時期に川の透明度が回復するので、見られる可能性が高い。河川によっては、稚魚を放流しているので、群れで降海することもある。釣り上げれば確認出来るが、大切な資源であるから、当然この時期の釣りは禁止であり、保護されている。

雌の大部分と一部の雄が降海するが、北方程ヤマメの降海する確立が高く、陸封型は少なくなる。雄の一部は河川に残り、そのまま成熟するので、海から帰った大きな雌のサクラマスにまつわりつき、最終的には産卵行動にも参加する例も散見される。

北陸の九頭竜川では例外的に遡上したサクラマスの釣りが認められているので、多くの太公望が全国から集まるが清流とは言うものの大河であるため下流部では水中で観察出来るまでの透明度は望めない。

その生涯を海と川を往復して過ごすサクラマスが命脈を保つためには、川がダムでしきられていないことや、魚の遡上出来る魚道のある堰堤が整備されている等の条件が不可欠である。未来の子供たちのためにも上流に豊かな広葉樹の森林がある様な、自然度の高い河川環境を守ってやらなくてはならない。

キセキレイの子育て

英名:Grey Wagtail
学名:Motacilla cinerea

キセキレイはセキレイ科の美しい小鳥で、山沿いの清流の周辺に生息している。水辺の似合う野鳥なのだが、集落の周辺で営巣するペアも多く、時には車のボンネットの中にまで巣を作ってしまう。

今回は近くの山沿いに住む林業の方からの情報で、「家の物置にキセキレイが巣を作って、雛がいるけど、撮りますか?」とのお誘いがあった。お邪魔して巣を覗いて見ると、可愛い雛が5羽もいる。しかしその場所は高さ1メートル程の道具類が散乱している台の上で、巣は周囲に作業用の足袋を入れた紙箱やら、木材の端切れ等がある裏側なので、そのままでは到底撮影にならない。

相談の結果、時間をかけて1個1個取り除けばよかろうと言うことになり、スタジオ作りから開始。その物置は入口の扉はなく、カラスに雛が襲われないかと尋ねると、カラスは利口だから、しかられるのを恐れて建物の中にまでは入ってこないとのこと。親鳥は物置の前の地面におりた後、トコトコと歩いて侵入してくる。大きな障害物を動かした後は、さすがに警戒して、餌を咥えたまま何度も行ったり来たりしてなかなか巣に戻らないので心配したが、雛に餌を与えたい本能が強いらしく、間もなく給餌を再開したので、3メートル程離れた場所にリモコン操作の出来るビデオ・カメラ(テレコン使用)を設置し、何とか餌を与えている情況が撮影出来る様にした。

喉の黒い方が雄で雌より餌を運ぶ回数はやや少ない。餌を運んで来た帰りには雛の糞をくわえて運び出すのには感心する。この日から4日後が巣立ちの日となったが、巣立ちしたばかりなのに親の後を追う様に飛び去り、小屋の裏を流れる渓流の岩の上で親に餌をねだっていたので安堵した。雛は数日で独立し、親から離れるとのことだが、巣立って間もない赤ちゃんが独立して生きて行ける事実には、不思議な生命力さえ感じる。


釣魚クロダイ・関西ではチヌ

英名:Black porgy
学名:Acanthopagrus schlegeli

クロダイはタイ科の魚だが、マダイに比べると黒灰色で地味な体色である。とは言え釣魚としては釣り方もいろいろあって奥が深く人気がある。分布域は北海道南部からトカラ列島と広い。幼魚や若魚は河口域や淡水域にも侵入するので、淡水魚の図鑑にも登場する。

ビデオは7月中旬に佐渡で撮影したもので、大型のクロダイがドロップオフ近くの浅い藻場に群れていた。警戒心の強い魚であるが、静かに潜って息をこらえているとダイバーに興味を持って接近してくることがある。(普通、ダイバーは息をこらえるのは薦められないのだが・・・)

クロダイは例外的に雄から雌に性転換する魚で、雌から雄に変わるマダイ等他の性転換魚とは正反対でもある。又、成長につれて呼び名が変わる出世魚で、関東ではチンチン→カイズ→クロダイ、関西ではババタレ→チヌ→オオスケとなる。チヌと言う呼び名は関西で一般的だが、大阪湾を昔は「茅渟の海」と呼んだことに由来する様だ。

以前、晩秋に南房総の波左間海中公園へ取材に行った折、漁協の方がスピアーフィッシングで仕留めた大きなクロダイをお土産に頂いたことがある。発泡スチロールに氷を入れて、そのまま東京まで持ち帰り、刺身や潮汁で食べたが実に美味であった。

福井県でも若狭湾や越前海岸のクロダイが市場に並ぶが主産地は瀬戸内海の広島県周辺海域の様だ。クロダイは全て天然物かと思っていたが、最近は養殖もされているとか。西伊豆の大瀬崎では毎年12月頃になると大型のクロダイが岬の先端附近の浅瀬に集結して来る。

クロダイの場合、大型は殆どが雌なので、早春には繁殖行動に入るものと思われる。その時はダイビングが終わってエアーがなくなってから浅場で群を発見したので、ボンベを背負ったままスノーケルで追いかけることになって大変だった思い出がある。

取材協力:小木ダイビングセンター

2012年6月22日金曜日

ゴジュウカラの子育て

英名:Nuthatch(Eurasian Nuthatch)
学名:Sitta europaea

札幌の郊外に藻岩山と言う軽登山者向きの山がある。その麓では毎年の様にクマゲラが営巣するので、その時期になると野鳥愛好家が集まって来る。その年も鳥仲間に誘われて現地へ足を運んで見たが、まだギャラリー(野次馬の意味?)は集まっておらず、「せっかく来たのに、まだ早く無駄ではなかったですか?」と、友人に話かけると、彼はうなずきながら1本の太い樹木を指差した。

前の年までクマゲラが営巣していた樹洞にゴジュウカラがちゃっかり入り込んで子育てをしていたのだ。クマゲラは体も大きいので、樹洞の入口も大きい。ゴジュウカラは粘土みたいなもので、自分たちの体のサイズに合った小さい穴に改造して使っていたのには感心した。

ゴジュウカラは無重力の宇宙から渡って来たのではないかと思われる様な習性がある小鳥で、木の幹にさかさまにとまり、旋回する様に歩きまわることが出来る。これは簡単そうだが、他の小鳥には出来ない芸当である。又、餌台にヒマワリの種などを置いておくと、木の皮の割れ目にそれを運んでクチバシをハンマー変わりに使い埋め込んで隠したりする。雪に閉ざされる冬の間の備蓄だと言う人もいるが、あちこちに隠すので、隠匿場所を忘れてしまうケースも多いのではないかと思われる。

子育ては雌雄が交替で餌を運んでいたが、樹木に沢山登ってくる蟻なども素早くキャッチして食べていた。北海道ではゴジュウカラは珍しい小鳥ではないが、こうした営巣と子育ての様子は一日中見ていても飽きない程新鮮だった。


カワシンジュガイとヤマメ

英名:Feather Pearl shellfish
学名:Marugaritifera laevis

カワシンジュガイは淡水に生息する二枚貝で、イシガイの仲間。その昔広く日本全国の河川に生息していましたが、近年、護岸工事等により、生息に適した環境が失われるにつれて、生息地や個体数が激減してしまい、現在は環境省の絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。又、山陰地方では地域指定の天然記念物になっている。

カワシンジュガイが生息出来る条件として、自然環境もさることながら、産卵期に雄貝の精子を取り込んだ雌貝は体内で受精し、幼生を放出しますが、その幼生(グロキジウム)はある期間、ヤマメ等の鰓に寄生しないと生きて行けないと言う、不思議な生態が知られています。つまり、ヤマメとは切っても切れない間柄と言う訳です。

水温が上がり始める初夏、幼生はヤマメの鰓を離れて底生生活に移り長い時間をかけて成長します。人間より寿命が長い貝で、200年程も生きると言われれています。私がこれまで水中撮影をして来た河川では数個の貝や空殻を見つけたりしたことはありましたが、生きている状態で、これだけ多数の群落が現存するとはそれまで知りませんでした。

撮影したのは、北海道某河川の上流部に位置する岸近くのワンドです。水深は1mと浅いですが、流れはかなり速いポイントで、通常の倍位のウェイトを付けていないと流されてしまいそうな状況です。

カワシンジュガイは別名:タチガイとも言われ、底から直立した状態で口を開いています。ワンドでは流れが巻き込んでいるので、本流の流れとは逆の方向に向かって口を開けていました。


2012年6月9日土曜日

オシドリの交尾

英名:Mandarin Duck
学名:Aix galericulata

オシドリの雄はオレンジ色の銀杏羽が美しく嘴も赤いが、雌は嘴も灰黒色だし、灰褐色の地味な体色である。用心深い野鳥と言われているが、公園の池等では餌をあげると手の触れそうな距離にまで接近出来る。

繁殖期には大木の樹洞に営巣して子育てをするのも普通のカモ類にない習性だし、好物が藻類などではなくドングリと言うのも変わっている。「オシドリ夫婦」と言う言葉もある様に夫婦仲の良いカモ類として知られるが実際にはどうだろうか?オシドリの小群が生息する近所の山上湖で撮影しながら観察していた時、偶然に求愛行動から交尾までを目撃するチャンスがあった。

その時雄は雌の上に乗り交尾の体勢になったのだが、雄の重みで雌が水中に潜ってしまったのだった。雌は苦しかったに違いない。今年は雪解けが遅れたため、その湖へ行く林道が閉鎖されていたので、オシドリの繁殖行動を観察するのをあきらめていた。

しかし1ケ月程遅れて、数羽が田植えの終わったばかりの水田に姿を現した。しばらく観察していると、あぜの上で昼寝をしていたペアが田んぼに下りて求愛行動を始めた。今度こそはとビデオを構えて待つと、雄はついに雌の上に乗った。浅い水田なので今回は雌の頭部まで水中に没することなく、交尾を始めたが、何と雄は自分が落っこちない様に雌の頭部の羽毛に噛み付いており、以外にも乱暴でやさしくない交尾だった。

オシドリの雄は雌が樹洞で抱卵を始めると夫婦生活に区切りを付けて群に戻り、又別の雌を追いかけることもある。人間でさえ、おしどり夫婦と噂されていても実は喧嘩ばかりしている夫婦もいるし、浮気する夫も少なくないから仕方がないのかも知れない。

2012年5月31日木曜日

ギフチョウとカタクリ

英名:Japanese Luehdorfia
学名:Luehdorfia japonica

ギフチョウはアゲハチョウの仲間で、日本固有種。本州の山間部に生息し、アゲハよりは一回り小さいが、より美しい蝶で、里山の雪解けが終わる頃、カタクリの花が咲く日当たりの良い斜面の下草の少ない広葉樹林周辺で見られる様になる。

ギフチョウは秋田県から山口県にかけての本州に広く分布しているらしいが、最初に採集されたのが岐阜県の郡上附近なので、この名があるとか。ギフチョウはカタクリの蜜を好むので、カタクリが群生している場所で見られることが多い。両者は色彩的にも調和していて見る者をなごませる。

又、卵は濃緑色のカンアオイの葉に産み付けられ、幼虫(黒いケムシ)はその葉を食べて育つとのこと。ケムシは苦手な私なので、最初地元のカメラ愛好家に誘われた時も、「まろは昆虫は苦手じゃ」とばかりそれ程乗り気ではなかったのだが、ギフチョウは天国からやってきた神の遣いかと思われる程の可憐さですっかり一目ぼれしてしまった。

越前の里山に暮らす様になって、我家からわずか5分〜10分程の距離にその生息ポイントがあるのにも感動した。撮影は簡単そうに思えたのだが、カタクリの花から花へひらひらと舞う行動のパターンがなかなか読めず最初はシャッターを押したとたんに飛ばれてしまうことが多かったが、「ちょうちょう」の童謡を口ずさみながら、何度も異常接近を繰り返す内に少しずつ、その行動が予測出来る様になって、何とかご覧の様なビデオを撮ることが出来た。

ベニザケ婚姻色の群

学名:Salmo(Oncorhynchus)nerka neruka
英名:Sockeye salmon

ベニザケとヒメマスは同じ種類の魚です。陸封されたヒメマスの卵からふ化した幼魚を海に続く河川に放流するとやがて降海し、ベニザケに成長して再び放流された河川に回帰します。

さけますセンターでは河口近くで採取した銀白色のベニザケ(元はヒメマス卵)を養殖池で蓄養し、成熟するまで待って、採卵しています。ごく一部の河川では、秋に婚姻色の群が見られる様になりましたが、まだ数ケ所です。

ビデオは湧水を利用した池で蓄養されていた採卵真近かな婚姻色の群。雄は猛禽類の様に鼻が曲がり、背っぱりの姿になります。アラスカやカナダでは自然の状態でこうした群が見られますが、我国ではベニザケの自然遡上が見られる河川は北方領土である千島列島・択捉島の得茂別(ウルモベツ)湖以外にはないので、北海道の一部の河川でベニザケを定着させる試みが続けられています。

ベニザケの魚体はシロザケに比べて小ぶりである為肉量はやや少ないものの、紅い身肉で見た目も美しく、他のサケ類に比べて美味なので食用として人気があります。又、ギンザケやニジマスの様に養殖物が出回ることはなく、海の自然な餌で成長した魚なので、より安心して食べることが出来ます。

何時の日か、北海道の河川でも、この真紅の姿が大挙して遡上する姿が見られる様になるかも知れません。又1日も早く不法に占拠されている北方領土を返還して欲しいと願うばかりです。

取材協力:さけますセンター千歳事業所

ヤマセミの巣穴掘り

学名:Ceryle lugubris
英名:Greater Pied Kingfisher

30年程前、取材の帰りに中国地方の山間部を小雪の降る晩秋に山越えする時、遠くのつり橋のロープにとまっていたのを目撃したのが、私がヤマセミを見た最初だったと記憶している。

北海道から九州にかけて繁殖する留鳥のヤマセミは魚類を主食として生活している関係上、山上湖や山間部の渓流に住み、余り都市化が進んだ場所では普通見られない。

札幌に移住してから、なんと市内の山沿いの小川にもヤマセミを発見し、天気の良い日には毎日の様にそこへ出かけてブラインドを張って観察と撮影をしていた。じっと隠れていると幻の野鳥が直ぐ目の前の小枝にとまり、エゾウグイやスナヤツメを捕食したり、水浴びをしたり、枝の上で食後のうたた寝をしたりするので感激だった。

色彩的には白黒の斑で地味な鳥だが、くちばしが長大で、大きな冠羽があり、雄の胸部は薄いオレンジ色、雌は翼の裏がオレンジ色をおびている。営巣する場所は垂直に切り立った崖で天敵が巣穴に入れない様な位置に奥行が1メートルもある横穴を掘り巣穴とする。

穴堀りはそれ程得意ではないので、3週間もかかる場合が多いが、前の年に使った古巣をお掃除して再利用することも多い。巣穴へ飛び込む場合はやや離れた樹木などから一気に飛び込む場合も多いが、近くにとまりやすい枝や岩等があれば、一旦そこにとまってから侵入することもある。

キャラ、キャラツと独特な声で鳴く。留鳥なので、冬場は雪に閉ざされた様な細い渓流ではなく、餌の捕れる本流の岸辺にある樹木の枝にとまっているのを見かけることが多い。




2012年5月2日水曜日

メジロと山桜

学名:Zosterops japonicus
英名:Japanese White-eye

目の周囲に白いアイリングが目立つ黄緑色のメジロは姿が可愛らしくチーチーと澄んだ声で鳴く。全国に生息する留鳥であり、野鳥図鑑の表紙等にも登場する人気者である。加えて春になり満開の桜の花の蜜を吸いにメジロが集まってくる情景は純日本的で見る者をなごませる。

何度かこのカットを撮影したいと挑戦したが、通常桜の枝はある程度の高さがあり、撮影する場合、どうしてもかなり離れた位置から撮影せざるをえない。しかも下から見上げるので、その時の光線状態にもよるが、逆光になってしまうことが少なくない。まして、染井吉野等が満開の時期には、白い桜花にウグイス色の被写体なので、露出の加減が難しい。メジロに露出を合わせると、露出オーバーでせっかくの桜花が白くとんでしまう。

この日私はダイビングをする予定で東伊豆のリゾートの一室で目覚めた。上天気で朝日が2階の部屋を明るく照らし始めたのでカーテンの隙間から表を見ると、窓と同じ高さに満開の伊豆山桜が咲いていて、何とメジロが何羽か集まって来ていた。私は前夜、水中撮影用のハウジングにビデオ・カメラをセットしてから寝たのだが、それを又取り出して、窓から4〜5メートルの距離でこのカットを撮ることが出来た。

私の場合、小鳥をビデオで撮影する場合テレコンバーターを取り付け900mm相当位で撮るケースが多いが、その日はダイビング目的だったので、愛用のレイノックス・テレコンは持参していなかったし、十分近いのでその必要がなかった。そして以前、伊豆大島の民宿でも庭の椿の花にメジロが来ていたことをふと思い出した。

UFOみたいなエチゼンクラゲ

学名:Nemopilema nomurai
英名:Nomura’s jellyfish

巨大なエチゼンクラゲの話題は何度も聞いてはいたが、以前は東京や札幌に住んでいたので、クラゲが大挙して襲来する秋に、日本海に潜る機会がなく遭遇出来ないでいた。

越前市に転居してから海の荒れる真冬の3ケ月以外は何時でも潜れる状況だったので、その内と思っていた矢先、一昨年の秋、案の定大襲来が起こった。何時も通っていた南越前のダイビング・センターに潜った所、何と湾内全部がクラゲで埋まってしまう程集まっていた。

微細なポリプが海中に浮いているので頬に刺さりチクチクと痛む。薄い肌色をしているのが多いが、ピンク色がかった個体もいる。笠の直径は1メートル以上もあり、重さは200kgを超えるものもあるとか聞いてはいたが、いざそのクラゲの中に飛び込んでしまうと、毒のある口腕と紐状の付属器に触れない様にするのが精一杯で、クラゲの間を縫う様に沖に向かった。

沖の浅根の上で撮影を始めたがクラゲは波の動きに合わせて、ごろごろと転がってしまうので、さらに水深のある沖まで移動してやっと自然な感じで撮影出来た。日本海では定置網に入って他の魚を売り物にならない程傷つけたりするやっかいもので、漁師はバラバラに切りきざんで、海に捨てている。

風向きが沖に向かっているときは良いが一旦岸へ向かって吹くと、その残骸共々沿岸に打ち上げられてクラゲの墓場みたいになる。中国では食材に利用することもあるらしいので、捨てるのはもったいない。我国でも何とか有効利用を考えて欲しいものである。

2012年4月13日金曜日

若アユのジャンプ

学名:Plecoglossus altivelis altivelis
英名:Ayu

春から初夏に堰堤や小滝でジャンプする若鮎は季節の風物詩である。海から遡上したアユの稚魚は川へ入ってぐんぐん大きくなり上流をめざす。滝や堰堤があっても果敢にジャンプを繰り返し遡上を続ける。

私はこれまで何度かこうした光景を見て来たが、パラパラとジャンプする程度の状態から、かなり忙しく矢継ぎ早に跳躍する光景まであった。今回若狭湾に流入する河川でのジャンプは後者であり、かなり激しく、忙しいものであった。

次々とジャンプするアユたちはまるで水車が勢いよく回っている様にさえ感じられた。一度のジャンプで堰堤越えが出来ればどんな大きな群でも数分の内に終了してしまうのだろうが、今回の様な急峻な堰堤で水量も少なければ99%のアユが堰を越えるのに失敗して又落ちて来てしまう。アユたちは失敗にめげず幾度も諦めずに挑戦する。だからジャンプするアユの数が減らないから、エンドレスの水車ジャンプが見られる。しかし、人間には残像現象と言うものがあって、連続したイメージで脳に伝わるから実際より多くジャンプしている様に見えるだけである。なぜなら、ビデオのひとコマひとコマをスチール写真にキャプチャーして見ると、多くてもせいぜい5〜6匹が宙に舞っている程度であるのが判る。

6月下旬のこの日は帽子をかぶらないと頭が暑くて立っていられない程の上天気だった為、熱中症になったのか、若鮎の生命力に感動したのか、ビデオカメラの電源を入れっぱなしにしたままバッグにしまい込み、バッテリーをオーバーヒートさせてしまって1個廃棄処分する羽目になった。

美味しそうなマアジ

学名:Trachurus japonicus
英名:Yellowfin horse mackerel

フライや塩焼きでお馴染みの惣菜魚である。尾から胸びれにかけてゼイゴ(ゼンゴ)と言う堅いトゲトゲしたウロコが並んでいる。

マアジは日本各地にいるが、幾つかの変異があることが知られている。沿岸や内湾に多い黄褐色のタイプがキアジ、外洋性で沖合いを回遊するタイプはクロアジ等と呼ばれるが、基本的には同種とされている。

写真は7月に佐渡で撮影した群で、産卵期には沿岸に近い岩礁域に集まるクロアジと思われる。大型のマアジがこの様に海藻地帯にいる状態は太平洋側では余り見られない光景である。マアジの若魚は小アジと呼ばれ、海藻地帯に群れていることが多い。

あるとき浅い岩場の海藻が繁茂している場所で、小アジの群が何かに追従している光景に出会った。海藻の繁みにはゴンズイの群がいて、岩の表面の付着藻類や甲殻類等を捕食しながら移動していたので、そこに隠れていたエビ等が慌てて逃げようと飛び出して来るからそれを狙って移動していたのだ。つまりおこぼれ頂戴の行動と判明した。又、マダイの幼魚に腰巾着を決め込んでいる小アジもいた。

マダイは岩の下部に隠れているエビ類等を狙って小石をひっくり返したり、活発に動くが、その時もおこぼれを狙っていた。オキアミや動物プランクトンが主食だが、小魚や小さなイカ、ゴカイ類等も好んで食べるので、肉質も良くて美味しいのかも知れない。

取材協力:佐渡ダイビングセンター



2012年3月26日月曜日

佐渡北小浦のコブダイ・弁慶

学名:Semicossyphus reticulatus
英名:Bulgyhead wrasse

私が佐渡の北小浦を訪れ、始めてコブダイの弁慶を撮影したのは、1993年の7月だった。伊豆半島で良く潜っていた私は何度かコブダイにも出会っていたが、結構神経質な魚で普通はダイバーが近づくと逃げてしまうことが多い。

北小浦では佐渡ダイビング・サービスの本間了氏が毎日の様に活きの良いイカやサザエを持って潜り、せっせと餌付けしたお陰でダイバーと仲良くなり、潜ると餌をねだりに近づいて来るまでになついている。

その時撮影した姿は翌年小学館から刊行された「海の魚」に掲載されている。その後私は北海道に転居してしまったので、佐渡を訪れる機会がなかったが、2010年久しぶりに又、佐渡へ取材に行き、北小浦に潜って見た。

弁慶は以前よりやや老成魚の風貌になり、向こう傷も増えていたが、健在であった。次の世代を担うであろう若い雄も育っていたが、まだ縄張りの王者として君臨していた。

最近の事件らしいが、弁慶を見に潜っていたあるダイバーが、余り近くまで接近して来る弁慶に恐怖感を感じてダイバー・ナイフを抜いて切りつけてしまったらしいのだ。忠臣蔵ではないが、「またれい。殿中でござるぞ」とガイドが静止するも間に合わず、弁慶は深手を負ってしまったとか。不幸中の幸いで一命はとり止めたが、大きな傷は残ってしまった。世代交代は近いかも知れない。

ビデオに登場する幼魚は赤ちゃんの時の弁慶ではないのだが、コブダイの幼魚。親とは似ても似つかない美魚である。


ムササビのお出かけ

学名:Petaurista leucogenys
英名:Japanese giant flying squirrel

札幌に住んでいた時、エゾモモンガが大好きな友人がいて、毎晩の様に夜の森を散策する機会があった。暗くなると住処の樹洞から出て来て、樹木の間を滑空しながら移動し、餌場へ向かう。朝、夜が明ける前に又巣穴へ戻ってくる。昼間でも巣穴からのんびりした顔をだしている時もあるが、多くの時間は眠って過ごす。

夜の森と言ってもヒグマが冬眠中の真冬であり、振り返ると町の明かりが見える程度の場所なのであまり恐怖感はない。生態的に面白いだけでなく、とても可愛い顔をしている。

越前市に転居してからホンドモモンガを探すのを頼まれて又夜の森に出かける様になったが、発見したのはムササビばかり。ムササビはモモンガに近いリス科の動物で、日本固有種である。

ムササビは北海道には生息しないが、福井県は神社仏閣の多い所なので、鎮守の森も少なくない。町の中に孤立している場合は余り期待出来ないが、裏が山へと続く様な境内にある大木の樹洞には必ずと言って良い程ムササビが住んでいる。とは言え、樹洞がとても高い位置にある場合などは撮影するのも大変なので、なるべく低い樹洞を探さなくてはならない。

ムササビは山奥に建てたログハウスの天井裏に住み着き、あちこちに穴を開けてしまったりするいたづら者なので、嫌われる。神社でもときどき内密に捕獲して、遠くの山へ捨てに行く僧侶もいるそうだ。

今回は巣穴から出てくる所までは撮れたが、その後、照明が届かない高い所まで登られてしまったので、滑空する姿は残念ながらまだ撮れていない。



2012年3月14日水曜日

アカショウビンの営巣

学名:Halcyon coromanda
英名:Ruddy Kingfisher

私が始めてアカショウビンを見たのはもう20年以上前になる。北海道恵庭の森を流れる渓流で淡水魚の撮影をしていたとき、「キョロロロロ・・・」と気持ちの良い鳴き声が聞こえ、見上げると小枝に赤い体で太くて長いくちばしの小鳥がいた。

私は野鳥が大好きなので、直ぐにでも撮影したかったが、いかんせん広角レンズを使用する機会が多い水中と超望遠レンズを主に使用する野鳥の撮影は両立不可能でそのときは断念するしかなかった。

その後支笏湖から流れる千歳川へ水中撮影目的の取材に行ったときにも出会う機会があった。5〜6年前に福井県に転居してから、住まいの近くに自然が多く、様々な野鳥が生息しているので、再び周辺の渓流や森を探し回った。

カワセミやヤマセミは比較的容易に発見出来たし、姿も見られたが、それでもアカショウビンには遭遇出来なかった。それもその筈で、アカショウビンは5月頃、南方から渡って来る数の少ない渡り鳥で1年中同じ場所に住んではいなかったし、薄暗い山奥の渓流などにいて、滅多に開けた場所には姿を見せない鳥だったのだ。

そんなときもう40年以上も野鳥の観察を続けているY氏とめぐり合った。彼は数枚の紙焼きした写真を見せてくれた。大きなスズメバチの巣に営巣しているアカショウビンの写真だった。「ええっ・・樹洞に営巣するんじゃなかった」私は驚きを隠せずにいた。そう言えば沖縄ではシロアリの巣に営巣するのをテレビで見たことがある。

翌年の梅雨明けの頃、彼は今年発見した営巣の場所へ案内してくれた。山間部の農家の屋根の裏側に大きなスズメバチの巣があって、握りこぶし大の穴があいている。驚いたことに、スズメバチも一緒にいてブンブン飛び回っているのだ。

親鳥は雌雄が交替で餌を運んでくる。アマガエルが多いが、トカゲや小型のヘビもくわえて来る。驚かさない様にブラインドの後ろに身を隠し、夢中で撮影した。感激の出会いだった。その後この巣から2羽の雛が巣立ったとの報告をY氏から聞いた。




オイカワの産卵

学名:Zacco platypus
英名:Pale chub

オイカワはコイ科の淡水魚で本来関東以西の本州、四国、九州に分布していたが、アユの放流に混じって分布を広げ、現在は北海道を除く日本中ほぼどこの河川にもいるおなじみの魚となっている。用水路や山上湖などにも多い。しかし、いざ水中で産卵行動を撮影しようと思うと良い場所と撮れる時期は限られてくる。

浅瀬で産卵するので、陸上から観察するのも面白い。まず、うっすらと婚姻色に染まった雄は雌の周囲で各ひれを目いっぱい広げて派手なディスプレイ行動を始める。今回の様に雄のまわりには数匹の雌がいて順番待ちの様にも見えるがどっこいこぼれた卵を食べようと狙っているのかも知れない。

雄は一匹の雌を押さえ込む様にして産卵床にしゃがみこむがその時、長い臀びれで雌を抱き込むようにする。ひれを激しく震わせるので、産卵の瞬間には大きな砂煙があがる。そしてその竜巻は思いの他激しいので、オイカワ君自身もびっくりするのか、産卵直後蜘蛛の子を散らすようにすっとんで逃げるのが又面白い。


ウグイの産卵

学名:Leuciscus (Tribolodon)hakonensis
英名:Japanese dace

 ほぼ全国的に生息する種類だが、淡水型(陸封型)と降海型があり、北方程降海型が多い。降海型は栄養豊富な海で生活するので、淡水型に比べて体も大きい。

ある道南の河川。春の雪解けが終わって川の岸にエゾヤマザクラが咲く頃中流の産卵場所に集結した婚姻色の群が賑やかに水音を立てながら産卵行動を繰り広げる。海にいるときは銀白色だった体色は、派手な婚姻色に変わっている。

産卵は1匹の雌を複数の雄が追尾するかたちで行われる。産卵する雌雄だけでなく産み落とされた卵を食べようと集まっている集団がいるので、見慣れないと群れが右往左往しているだけで産卵の状態は良く判らないが、ゆっくり水中から観察していると、産卵の瞬間も確認出来る。浅瀬で産卵しているグループは背びれや背中が水面から出ているので、外敵に襲われ易い。アオサギやキタキツネが入れかわり立ちかわり現れては1匹又1匹とくわえて去って行く。

あまり浅い場所は水中カメラのポートが水中に没しない為、水中が撮れないので私は逆にやや深い場所で産卵中の群を探してカメラを構える。腹ばいの姿勢でじっと撮影していると今度は林道から人の声がする。「あの人動かないけど死んでるんでないかい」と言っているらしい。私は膝を曲げて片足だけ水面に持ち上げて生きている証とした。前に聞こえない振りをしていたら石ころを投げつけられた苦い経験があるのだ。生活の知恵と言える。



2012年3月12日月曜日

ブラックバス(オオクチバス)の産卵

学名:Micropterus salmoides salmoides
英名:Black bass / Largemouth bass

私が始めて水中のブラックバス(以下BB)を見て、撮影したのは、もう40年以上も前のことである。TBSテレビの撮影で、箱根の芦ノ湖に潜ったとき、沈木の所にいた見たこともない淡水魚が他でもないBBだったのである。BBは現在ではほぼ全国的に分布するが、もとはと言えば外来魚。釣人のゲリラ放流によって生息域が広がり日本固有の魚種が駆逐されつつある。

琵琶湖は淡水魚の宝庫と言われる日本最大の湖だが、岸近くの浅い場所に生息するタナゴの仲間などは絶滅に近い状態である。最近の琵琶湖の浅場にはBBとブルーギルばかりが目につき、在来の魚はヨシノボリだけかと思われる程の悲惨な状態である。

ワンドになったところを潜っていると、あちこちで産卵床の卵や仔魚を守っている大きな雄の攻撃にさらされる。私は頭にネオプレーンのフードをかぶっているから大丈夫だが、水中メガネだけだと額や耳を噛み付かれるだろう。

BBは雄同士で激しい縄張り争いもするし、釣人はキャッチ・アンド・リリースで、釣れても持って帰らずに又放流するので傷物が多い。又、透明度が良くない日は撮影にならない。この日は晴天ベタ凪が3日間続いた後で、かなりの透明度があった。そして幸運なことに無傷に近いペアが目の前で産卵を始めてくれた。

サケの様に器用ではないが、雄は尾びれを使って、底の泥を吹き飛ばし産卵床を掘りながら、雌に産卵をうながす。産卵は体を震わせながら繰り返し行われる。そしてこのシーンに感動する自分と失望する自分が見つめる。残念ながらBBはこのような強い生命力と繁殖力でこれからも末永く琵琶湖に君臨するであろう。琵琶湖の水を全部干しあげてBBを駆除するなんて出来ない相談なのだから。

海洋生活型のサクラマス

学名:Salmo(Oncorhynchus)masou masou
英名:Masou trout

ヤマメには陸封型と降海型があって、降海型は海へくだり、大型に成長する。北海道ではちょうど雪解けの時期と遡上の時期が重なるので、(特に日本海側では)雪代で河川が増水し濁りがあって水中撮影が出来ない。

6月の下旬になると雪解けの増水も収まるので、中流の淵にたどりついた個体を観察できるが、銀白色の個体は次第に輝きを失い、背側には多数の黒点が現れ始める。これに比べ、降雪の少ない年に太平洋側の河川の感潮域では海から遡上して間もない銀毛のサクラマスをクリスタルな水中で観察出来ることがある。

ちょうどこの日も晴天で水の透明度が良かった。河口から50m程の所に国道の橋が掛かっており、橋下の日陰に数匹が群れていた。流れがきつい場所で私の胸位の水深があったので通常の倍位の約20kgものウェイト・ベルトを腰に巻いて静かに接近する。排気の泡の音で逃げない様に空気ボンベは使わずスノーケル装備だ。

雪解けの水はしびれる程冷たいので、ホッカイロを忍ばせたドライスーツを着用している。一度は逃げてしまったが、鱒たちは又元の位置に戻って来て、しばらくの間カメラの前をゆっくりと旋回してくれた。


スナヤツメの産卵

学名:Lampetra(Lethenteron)reissnen
英名:Sand Lamprey

スナヤツメは一生を淡水域で暮らすヤツメウナギ科の純淡水魚であるが、研究者によっては魚類の仲間と見なさない例も多い。九州の南部を除いてほぼ全国的に生息するが、北方型と南方型に分ける場合もある。

北海道では毎年雪解けの頃、源流に近い川の上流の砂泥底に沢山のスナヤツメが集まって来て、産卵行動を繰り広げる。それを狙ってアオサギやシラサギの仲間、ヤマセミ等が集まって来て、ダイナミックに捕食して行く。

産卵している場所を探すにはまず野鳥が集まっている場所を探せば良い。群れとなったヤツメウナギはまず雌がその丸い吸盤状の口で手ごろな石ころに吸付いてから雄が雌の頭部附近に吸付き下半身を雌の体に巻きつける。

2匹がからみあった状態で体を丸め激しく痙攣しながら産卵する。産卵床は小川の中央の流れの強い場所なので、吸付いた口が石から離れてしまうこともあり、ペアがからみあったとたんに流されてしまうケースも多い。

幼魚の時代はアンモシーテスと呼ばれ、目がない。成体になると目が出るが、八目の内7ケは鰓孔である。成体は餌を食べず、産卵行動が終わるとその一生を終える。


2012年2月22日水曜日

サケ(シロザケ)の遡上と産卵

学名:salmo(Oncorhynchus)keta
英名:Chum salmon / Dog salmon

北海道では、殆ど全ての河川にサケの回帰が見られる。母なる川で生まれたサケの稚魚は、やがて海に下り、遠く外洋へと旅立つ。

4年目の秋、見違える様に大きくなったサケは故郷の川の河口に終結し母川へと遡上する。海で生活している時は、銀白色だった体色は、川へ遡上する頃にはブナ(ブナの木肌の色)と呼ばれる婚姻色に染まっている。

通常、汽水域や河口は透明度が良くないので、撮影すること自体簡単ではないが、天候に恵まれ流程の短い渓流の様な川を選べば、美しいサケの群れを水中で観察することが出来る。さらに又、幸運に恵まれれば、海洋生活型のサケに遭遇出来るかも知れない。

川を遡上し、産卵場所へ到着したサケの雌は、伏流水のある様な砂利底にその大きな尾鰭を使って、産卵床を掘り始める。

雄はごく稀に手伝うことはあるが、雌の卵が腹の中で成熟し、産卵の態勢になるまでは周囲で待機している。近くにいる雄同士は雌の奪い合いで熾烈な闘争を繰り返すこともある。

雌は臀鰭を石の間に刺し込んで掘れ具合を確認しながら堀続けるが、やがて産卵床が完成するとそこへ腰を落とし、口を大きくあけて産卵の態勢になり力をこめると、雄はすかさず横にならび勢い良く放精する。

卵の中へ精子が入り込み受精卵になると雌が又、尾鰭を使って小砂利をかけて埋め、卵を川底に隠してしまう。

カイツブリの子育て

学名:Podiceps ruficollis
英名:Little Grebe

カイツブリは全国の平地の川や湖にいる留鳥で、潜水が得意な小型の水鳥である。ハスの花が咲く頃、近所の池で巣作りが始まったとの情報を聞いて早速出かけて見た。

雄と雌が共同で浮巣を作って4ヶの卵を産んだ。巣の上にあがって雄と雌が抱卵を交代している足元を見ると、体に比例して大き過ぎる水かきが見えた。

生まれつき足ひれをはいている様なものだから、歩くより潜水が得意なのが理解出来る。それからかれこれ半月ほどたってから行って見ると、もう雛が誕生し始めていた。親の羽の下へ潜り込んで首だけ出していて可愛い。

不思議なことに生まれて直ぐに水の上を泳いでいる、親が運んで来た食べ物は何でも食べようとするのには驚く。

水生昆虫やトンボなどとても大きめで口に入りそうもない生物でも貪欲に飲み込んでしまう。又、生まれたばかりなのに、兄弟で餌の取り合いから激しい喧嘩となり、ついに1羽が死んでしまった。生存競争は人間の社会以上に厳しい。

2012年2月20日月曜日

里山のキジ

学名:Phasianus colchicus
英名:Common Pheasant

キジは日本の国鳥。余り大きく移動しないで、1年中、同じ地域に留まる留鳥である。繁殖期になると雄は「母衣打ち(もいうち)」と言って、縄張り宣言の羽ばたきを繰り返す。

雌の前では尾羽をクジャクの様に広げて求愛行動もする。ある日ちょうど撮影中だったが、突然現れた別の雄との間で、激しい縄張り争いが始まった。大型の鳥であるからなかなかの迫力で見ごたえがあった。

私は車の中から撮影していたので、2羽の雄はこちらの様子を気にすることもなく。最初から最後まで激しい闘争シーンを展開した。

しばらくして、戦いに疲れた雄が離れて行き、互角の勝負だったのにまるで勝利を宣言する様に「母衣打ち」をしてお開きとなった。

滝つぼのオオサンショウウオ

学名:Andrias japonicus
英名:Japanese giant salamander

岐阜県以西の本州、四国の山間部には両生類では世界最大と言われるオオサンショウウオ(別名:ハンザキ)が現在もその命脈を保っている。

中国地方の山間部、生野銀山湖に流入する黒川にはオオサンショウウオの保護地区があり、研究スタッフも川の畔の施設に常駐している。

山が紅葉に染まり始まる頃、渓流の滝つぼに潜って見た。水深5〜7mの滝つぼのえぐれに大小数尾のオオサンショウウオを発見してビデオ・ライトを点灯し、撮影を始めたその時、逃げ惑った数尾の大アマゴ(湖沼型のサツキマス)の1匹が餌食になった。

魚には気の毒なことをしたが、おかげでしっかりと尾柄部をくわえられた大アマゴが必死になって逃れようと大暴れする様子を思いがけず撮影出来た。

潜水する前まではこの細い渓流で、1.5m程にも成長する超大型の野生生物が何故これまで生存出来ているのか理解出来なかったがその謎が一気に解けた様な気がした。

※取材協力:日本ハンザキ研究所